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1.ほころばなかった6針
2.いよいよ
3.いきなり全粥
4.退院の準備運動
5.最後のブリーフィング
6.退院の日
7.1か月の自宅療養
8.話す手段
9.銀鈴会
10.電気喉頭を使う練習
11.3つの「声」
12.ノリはたいせつ
13.Take me out to the Ballgame
14.さらば携帯
…この項終わり…
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1.ほころばなかった6針
6針の縫合は、すばらしくうまいぐあいだったようだ。翌日の朝の処置担当R医師は、それを見て、
「D医師が1人で縫ったんですか。きれいに縫っていますね。でも、1回じゃすまないですね、これは。あと、1、2回縫うつもりですね」
と、ひとりごちた。
縫合を見ただけで「1回じゃすまない」ということが、わかるの? それを聞いたとたん非常に縫合を見たくなって、だいぶTと交渉したのだがガーゼをはがして縫合をみせてはくれなかった。けち。
ところが、その後、縫合はほつれることがなかった。朝の処置のときに水をすこし飲まされるのだが、漏れもないし、飲み込むときにノドにしがみついたこぶ(大胸筋)が収縮するように動くのだが、この動きにも6針の縫合はほつれなかった。前回の主治医だったN医師はTの肩をたたいて喜んでくれ、なにかと声をかけてくれる親切なP医師は「今週中にバリウム飲んで(通過検査)、食事ができるようになりますよ」といってくれた。
12月15日。今日から水を飲んでもいい、ということになった。乳製品はだめだけれど、水や茶などはいいとのこと。
昼に病室に行くと、Tが嬉しそうに、でもすこし苦しそうに「おなかがガポガポ」という。
「? ……あっ、するする水が胃に入っていくので、嬉しくてついつい飲んじゃったんでしょう!」
T、笑顔でこくん。
もお、おばかなんだから、といいつつ、私も笑っている。
夕方、D医師が来室。「看護婦から聞いたんですけれど、お水飲んでるんですって? どのくらい飲みました? コップに3杯。ふむ……300ccくらいかな。鼻の管がとれればもっとスムーズに入っていくと思うんですけれどね。じゃ、飲んでもらえます?」
TはD医師のいわれるとおりに、お茶を飲んでみせた。
夏の手術のあとに水を飲んだときには、なかなか飲み込めなくて苦労していたTが、今日はふつうの人とおなじように飲み込んでいる。想像以上のスムーズさである。
水を飲んだあとでD医師が首のようすを見た。「OKです。この調子でいきましょう」
Tは、二度と咽頭に穴があかないようにするために、嚥下については事を慎重にすすめようと覚悟を決めていた。バリウムを飲んで、重湯、三分粥、五分粥刻み食、七分粥、全粥と、一つ一つの段階を十分にこなせるようになってから次の段階に進もう。たとえうまく嚥下ができなくても、なげださないで、時間をかけて辛抱強く食べていこうと考えていた。
だから、嚥下の練習のスタート地点に着くための通過検査が早く行われないかなあ、と心待ちにしていた。
18日は月曜日。朝の処置でD医師から「今週ね。今週中にやりましょう」といわれたTは「今週中にやるって、なんのことだかわかる?」私に聞いた。「通過検査じゃないかな」
翌日からTは今日か、今日か、と待った。通過検査なら前日に予告がある。それを待っていた。けれどもなんの音沙汰もなくて、毎日毎日Tはがっかりしていた。
木曜日の夜。手術を終えたD医師がやってきた。
「飲み込みがスムーズにいっているようなので、明日から鼻の管を抜いて、経口食を始めましょう」
なんと、通過検査をすっとばすというのである。予想外だった。
「重湯からですか?」
「もうちょっといいものを、と考えています」
ということで、三分粥からのスタートが決定した。T、D医師が退室あとで激白。
「明日から三分粥というのなら、2、3日前から重湯で始めてほしかった。ここ数日の精神的ダメージをどうしてくれるんだっ」
まあまあ、といってなだめる。
「気持ちはわかるよ。一つ一つ慎重にこなしていこうと心に決めていたものね。でも、スタート地点がゴールに近くに変更になったということだけだから、そこから先を慎重にやればいいと思うよ。重湯と三分粥って、あんまり差がないかもしれないし。ほら、夏のときも三分粥って米粒なんてほんのちょっとしか入っていなかったじゃない」
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