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1.疑わしきは罰せず
2.思わぬうつ病
3.生検にだすためにブツをとる
4.イレギュラー発覚
5.全摘宣言の日
6.封じ手をあける
7.覚悟を決めるまで その1
8.覚悟を決めるまで その2
9.手術予定日を決める
10.手術でおこりうる問題
11.内科医は話し方がうまい
12.外来終了
13.入院の日
14.永久気管孔という穴
15.手術
16.あちらの世界にいったT その1
17.あちらの世界にいったT その2
18.下痢と微熱と貧血と
19.とつぜんの狭心症発作
20.失神発作
21.手ごわい嚥下の練習
…この項終わり…
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8.覚悟を決めるまで その2
非常に元気がないTの姿をみて、私は「なんとかしなきゃ」と思った。
「きみの高校の同級生に、医者がもう一人いたよね。とりあえず電話したら」
「なにを話すんだ」
「うっ……ま、手術前のご挨拶」
その友人は何科の医師かがわからなかったから、電話をしたところで今のTの状況についてアドヴァイスがもらえるとは思えない。役に立たない提案であった。Tは、はっきりとした返事をしなかったが、それでも数日後、友人に電話をした。
友人はTが喉頭がんになったことは知っていて、別の同級生の話をしてくれた。
「大学で教えているやつが、最初食道がんになって、治療後5年たってやれやれと思ったら今度は喉頭がんになってね。彼はどうしても声帯をとりたくないといって、重粒子線の治療をしている。もう1年たったみたいだよ」
それを聞いてTは言った。
「おれはそこまでは……。意見発表のしかたはいろいろあるから、いいんだ」
受話器をおいて風呂にはいったT。とつぜん、風呂場から「質問!」と声がかかる。私は「なんじゃらほい」と風呂の扉の前に立つ。
「手術をすると食道発声はできないの?」
「うん。遊離空腸移植をした人ではむずかしいみたい」
「電気のアレ(電気喉頭)をあてれば、話せるのか?」
「それは大丈夫だと思う。それから、入力した文章を読み上げてくれるパソコンソフトも、たしかあった」
「おれはそこまで早く打てないから。ブラインドタッチができないし。でも、器械を使えば話せるんだよな。ゆっくり要点だけを話せば、会議にもでられるな?」
「うん。可能だと思う」
彼は覚悟を決めた。
あとは、今とりかかっているプロジェクトを入院までにできるだけ進め、できるかぎりうまく引き継げるようにするだけだった。
翌日から、Tはとりかかっている仕事の整理を始める。けれども、私は、もやもやとした気持ちをひきずっていた。Tが手術を決めたのだからそれでいいんだと思ってみるが、ほんとにいいのか、とも思う。今度の手術はリンパ節郭清手術とは訳が違う。手術が行われてしまえばあとにひけない。とられてしまった声帯は元には戻らない。後悔はしたくない。
手術拒否を含めて、考えられる選択肢はすべて示せたと思う。そのなかからT自身が全摘手術を選んだのだ。私があれこれいうことはない。悩むことなど必要ない……と、頭では理解できているんだけど。でも、もやもや。
それにしてもなぜ癌研病院では音声再建術を試してみないんだろう。「当院ではやっていないですね」……なんにだって「初めて」はあるものなのに。
同じ事を何度も繰り返し考えていると全体が見えなくなる。「なぜやらないんだ」という一つの思いに捕らわれはじめて、主治医に対する信頼がだんだん怪しいものとなっていく。患者は主治医に対してなんの疑問ももっていないから、治療の進行に影響はないけれど、私は一人で「こんな気持ちでTの闘病を見ていたくないなあ」と、ぼんやり思った。
最初は、ぜったい手術だと思っていたけれど。放射線治療の話がでなければ、あのときは音声再建術のことなど知らなかったから、そのまますんなり咽喉頭全摘手術となっていた。めぐりあわせなのかなあ。Tが放射線治療を決めたときのことを思いかえす。
そうだった。
私はあのときD医師に賭けたんだった。D医師は、放射線治療中にがんの残存をみつけていて、ずっとそのようすをみていた。早い段階でがんを見つけてくれていた。こちらの期待通りに。なんの文句があろうか。
やっぱりD医師にまかせるのが、最善の策だ。
私も、ようやく覚悟が決まった。
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