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1.疑わしきは罰せず
2.思わぬうつ病
3.生検にだすためにブツをとる
4.イレギュラー発覚
5.全摘宣言の日
6.封じ手をあける
7.覚悟を決めるまで その1
8.覚悟を決めるまで その2
9.手術予定日を決める
10.手術でおこりうる問題
11.内科医は話し方がうまい
12.外来終了
13.入院の日
14.永久気管孔という穴
15.手術
16.あちらの世界にいったT その1
17.あちらの世界にいったT その2
18.下痢と微熱と貧血と
19.とつぜんの狭心症発作
20.失神発作
21.手ごわい嚥下の練習
…この項終わり…
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7.覚悟を決めるまで その1
その夜、Tは「終わったと思っていたのに……ちくしょう」といった。がんを告知されたときでさえ落胆したようすをみせなかったのに、この日はあからさまにがっかりしていた。「元気がでないよ」と、しおしおしていた。そんなTのようすをみているのがちょっとつらくなって、それで私はついに、いままで言おうか言うまいかとためらっていたことを口にした。
「あのね、咽喉頭をとらなかったために死ぬことになってもかまわない、とまで思えるんだったら手術は受けなくてもいいと思うよ」
「死んでもいいから」とはひどいものいいだと思う。だからなかなか言えなかったのだ。でも、ここまできたらはっきりさせなければ。手術を拒否するならこれくらいの覚悟はしてもらいたい。死にたくない、でも手術も受けたくない、は通らない。
ある本の中で、ある頭頸科の医師が大腸がんにかかったときの話が載っていた。この医師は、大腸がん手術にはつきものの「人工肛門」をつくらなかった。
「人工肛門を断ったのは、一時的なものならよいのですが、多くは一生付け続けるものですから。それをやらなかかっために再発したよと言われても、それはそのときと覚悟していました。そういうことが言えずに嫌々作ったとしましょう。人間ですから、治ってみると、やっぱりあれは付けないほうがよかったんではないかという思いが必ずでてくるのです。
それを、私のように言える人はいいけれど、言えない人はその思いが残る。治った直後は感謝していても、実は器官を残す可能性もあったんではないかと思い続ける。」(寛仁親王「癌を語る」主婦の友社より)
なるほど、そういう考え方があったか、と思ったのだ。患者は医師から「咽喉全摘手術しかありません」といわれたら、それを拒否しにくい。「手術」という事態には勢いがあって、まるでその流れに乗るように手術をうける場合が多いと思う。
でも、勢いに流されずにふみとどまって「手術をする」ことについてゆっくり考えてみよう、その価値はある、という考え方は、目からうろこが落ちた思いがした。大腸がんの人工肛門と喉頭全摘と同じレベルとして考えていいかどうかはわからないが、覚悟ができていれば、本人次第で手術を拒否できるんだ。
私は本を渡してこの部分をTに読ませた。Tは、その場で目を通した。けれども、なにもいわずに本を私に戻した。
その後、数日たってもTは元気がでない。Tのしおたれたようすをみていたら、やっぱり音声再建術をあきらめたくなくなった。同じ咽喉頭全摘でも、なにか一つでも明るい未来、「自力発声」という可能性をみせてあげたい。
「もし、きみが望むのなら、音声再建術をやっている病院をこっそり受診してみる? すでに途中まで治療しているから先方もいい顔はしないと思うし、癌研病院にばれたらそれこそまずいんだけど。でも、手術ができるかどうか、可能性だけでもきいてみる? 永久気管孔はあくことになるし、自力発声といっても片手で穴をふさぎながら話すことになるけれど、電気喉頭よりはいいかもしれない」
禁じ手だなあ。
Tは考えていた。しばらくしていった。
「うん……でも、まあいいわ」
元気がない声だった。
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