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1.疑わしきは罰せず

2.思わぬうつ病

3.生検にだすためにブツをとる

4.イレギュラー発覚

5.全摘宣言の日

6.封じ手をあける

7.覚悟を決めるまで その1

8.覚悟を決めるまで その2

9.手術予定日を決める

10.手術でおこりうる問題

11.内科医は話し方がうまい

12.外来終了

13.入院の日

14.永久気管孔という穴

15.手術

16.あちらの世界にいったT その1

17.あちらの世界にいったT その2

18.下痢と微熱と貧血と

19.とつぜんの狭心症発作

20.失神発作

21.手ごわい嚥下の練習


 …この項終わり…


 

  6.封じ手をあける


 頭頸科は、非常に込んでいてずいぶんと待った。
 D医師の言葉。
「放射線治療科にいかれましたね。もうお聞きになっているかと思いますが、生検の結果はやはり悪性でした。まあ、手術ですね」

 続いて、質疑応答。
「どんなスケジュールになるんですか?」
「これから画像診断をして、それからスケジュールを組みなおし、ですね」
「どういう手術になりますか?」
「最初にお話ししたように、咽喉頭全摘です」
「(咽頭の)再建にはなにを?」
「遊離空腸を考えています」

 ここで、私は封じ手をあけた。医師から「咽喉頭全摘」をいわれたときに言う言葉。この一言があったから、「いつ全摘をいわれるか」とびくびくして日々をすごさずにすんだのだ。さあ、いうぞ。

「あのう……音声再建術というのは……今回は適応しませんか?」
 ちょっと腰がひけたものいいになった。D医師はあっさりいった。
「当院ではやっていないですね」
 玉砕。

 まあ、なんとなくだめだということはわかっていた。だって、癌研病院の医師で音声再建術について論文を書いたり、学会で報告をした人がいなかったから。音声再建術は一部の大学病院で行われているだけで、治療例もまだまだ少ない。

 音声再建術は誤嚥のおそれもあるし、音声の獲得にしても7例中4例の成功率だったりするからまだまだだけれど、でも可能性が半分あるんだったら試してみたい、と考えていた。Tの今回予定される術式と音声再建術は、咽喉頭全摘後に遊離空腸移植、というところまでは同じなんである。遊離空腸をちょっと長めにとって、再建した咽頭にちょっと穴をあけてくれればいいんである(これが素人考えの恐ろしさ)。声帯をとるのは仕方がない。でも、どんな声でも自力発声ができたほうがいいと思う。咽頭が残れば食道発声の道があるが、遊離空腸移植となると食道発声はむずかしい。……残念だな。

 音声再建がなんのことだかわからないTは、このやりとりを気にすることなく質問する。
「だいたいいつくらいに手術となりそうですか」
「7月中には、と考えています」
 もう? 7月中って……あしたは7月だぞ。
「そんなに急がなくてはならないんですか?」
 私の質問にD医師が答える。
「放射線照射中も残存していましたし、照射が終わってまだ2か月ですから、再発というよりは、表面上は消えても結局焼ききれなかった、ということだと思います。原発巣については2月からずっと手をつけずにおいておいたということになるので、これ以上時間をおいても……」
 Tが聞く。
「部分切除、というのはどうですか?」
 やっぱり期待しちゃったのね。
「声帯を残すということは、もう考えないほうがいいと思いますよ」

 それからD医師はカルテのいちばん最初のページをひっくり返して確認してからいった。「最初は、声はいいから全部きれいにとってほしい、というお考えでしたよね」

 なんと! こやつ、言質をとりおったな。

 Tも私ももう言葉がなかった。D医師は反論できない私たちをしり目に、院内LANを操作して、あれよあれよというまにいくつもの検査の予約を入れた。それはあきらかに手術のための検査だった。今日もこのあとでレントゲンやら、血液検査、尿検査が入れられる。とどめに入院予約。「もう待てませんからね。こっちは1回待ったんだからね」という勢いがD医師から感じられ、私たちはいわれるままに検査にむかうしかなかった。



                                  

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