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1.疑わしきは罰せず

2.思わぬうつ病

3.生検にだすためにブツをとる

4.イレギュラー発覚

5.全摘宣言の日

6.封じ手をあける

7.覚悟を決めるまで その1

8.覚悟を決めるまで その2

9.手術予定日を決める

10.手術でおこりうる問題

11.内科医は話し方がうまい

12.外来終了

13.入院の日

14.永久気管孔という穴

15.手術

16.あちらの世界にいったT その1

17.あちらの世界にいったT その2

18.下痢と微熱と貧血と

19.とつぜんの狭心症発作

20.失神発作

21.手ごわい嚥下の練習


 …この項終わり…


 

  4.イレギュラー発覚


 落ち着いたところで、D医師から説明がある。

「喉頭にイレギュラーがあります」
「イレギュラーって、なんですか?」
「フセイ、です」
「フセイ?」
「フセイです。フ、セ、イ」

 D医師は最後は、一音一音切って発音した。
 Tは「不正」だと思った。これはふだんから、たびたびパソコンのOSに「不正な処理をしたのでこのプログラムは強制終了します」といわれているからだ。「不正な処理とはなんだ、不正とは」といつもパソコンに怒っているTは、このときも「フセイ=不正」と思ったのだった。

 しかしおそらくD医師は「不整」といったのだ。医学英語辞典をひくとイレギュラーの訳語として「不整」があがっている。

「不正」にしても「不整」にしても私にはぴんとこなかった。「放射線治療の結果、不整です」とはどういうことなのか。それで、ふつうの英語の辞書でイレギュラーをひいてみると「むら」という訳語があった。

 なるほど。焼きむらがあったってことか。つまり焼け残っちゃったわけだ。そうかそうか、「不整」から「むら」という言葉は思い浮かばなかったけれど、たしかに「むら」は「不整」だよな。

 D医師はカルテに向かって記録を始めた。Tは「飲み込みがうまくいかないんですが」というと「喉頭はきれいですからね、食道のほうかもしれません」と、相手にしてもらえなかった。D医師は立ちあがって、Tの首を触診した。Tの後ろから一通り首を触って、また机に向かった。カルテに書き込みながら質問をしてくる。

「食事はどうですか。ふつうに食べられていますか」
「はい」
「体重は?」
「68キロです」

 いやな予感が脳を走る。体重はいままで一度も聞かれたことがない。

 もしかしたら、D医師は手術を決めているのかもしれないなあ。

 もちろん生検の結果次第だけれど、がんだと確信しているのかもしれない。体重を聞いたというのはTの全身状態をたずねたわけで、手術にたえられる体力があるかをはかったのではないだろうか。

 なんだかこの日の診察は、予想外の展開になってしまった。嚥下がうまくいかない理由を知りたかっただけなのに。

 次の週の木曜日は食道の内視鏡検査である。

 あいかわらずTは胃カメラとの相性が悪かった。検査の途中で別の医師が検査中の医師に相談しにきたので、検査担当医師はしばし手を休めて相談にこたえていた。Tの食道にはカメラがつっこまれたまま。Tは胃カメラをくわえ、話が終わるのを待ちながら心の中で「こんなときに相談しにくるな!」と叫んでいたという。ここでも生検用に2、3細胞をとられ、Tは検査が終わったときにはぐったりしていた。

  生検の結果は1週間後。



                                  

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