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1.疑わしきは罰せず

2.思わぬうつ病

3.生検にだすためにブツをとる

4.イレギュラー発覚

5.全摘宣言の日

6.封じ手をあける

7.覚悟を決めるまで その1

8.覚悟を決めるまで その2

9.手術予定日を決める

10.手術でおこりうる問題

11.内科医は話し方がうまい

12.外来終了

13.入院の日

14.永久気管孔という穴

15.手術

16.あちらの世界にいったT その1

17.あちらの世界にいったT その2

18.下痢と微熱と貧血と

19.とつぜんの狭心症発作

20.失神発作

21.手ごわい嚥下の練習


 …この項終わり…


 

  3.生検にだすためにブツをとる


 Tのノドの調子は安定していた。顎の下の腫れはだんだんひいていった。入院したときにスポーツ刈りにした髪の毛も、だいぶのびてきた。
「そろそろ床屋かなあ」
「でも、もう前のように伸ばしてもいいんじゃない? ま、夏は髪が短いとなにかと楽だろうけれど」

 社会復帰が目前だ。

 ところが、Tは、食欲は衰えないのものの「ものがつかえたり、へんなところにはいったりする」というようになった。
「水分は重力で胃のほうに落ちていくんだけれど、固形物はノドの入り口で引っかかる感じがする」

「顎の下腫れているところがノドを圧迫しているのか、それとも原発巣のがんが大きくなってしまったのかな」
 あまり楽観させてもいけないと思い、さりげなく「悲観的」な見方を織り込む私。

「いや、気管を閉じたり開いたりしている弁が腫れていて、うまく閉まらないって感じだ」
 抵抗するT。

「とにかくこんどの診察のときには、D先生にそういってね。ま、きみがいわなくても私がいうけど」
「きみは、大げさなんだよ」

 6月22日。待望の食道の内視鏡検査の日。
 朝一番の予約だったのでねむい目をこすりながら病院にいったのに、なんと担当の医師は学会に出席だとかでいなかった。「先生は、患者さんにはすべて連絡したといっていたんですけど」と、検査担当の看護婦さんが申し訳なさそうにいう。胃担当の医師はいるけれど、放射線治療の評価をするということで細かく見る必要があり、やはり食道担当医師がよいだろうということだった。それで、看護婦さんが来週の予約をいれてくれた。明日の診察をどうするか、という話になった。

 明日の診察は、この日の検査の結果を踏まえての診察の予定だ。今日検査ができないのならばと、放射線治療科の診察は延期することにした。頭頸科は、嚥下がうまくいかない理由をきくために、予約をそのまま入れておいた。

  6月23日。頭頸科診察。

 モニターとプリンター付きのファイバースコープで、ノドを見る。ここ、というところでプリントアウトする。どこからか医師がひとりやってきて、じっとモニターを見ている。

「がん細胞らしきものがあるので、生検にだしますね」

 D医師はそういって、ファイバースコープに、先っぽに小さなはさみ、根元にそのはさみを開閉する握りがついているワイヤーをいれた。医師は鼻からいれているファイバースコープそのものを支えている。看護婦さんを一人呼んで、はさみの握りをもたせ、D医師はモニターを見ながら看護婦に指示を出す。

「そこ……押しつけるようにして閉じて……はいっ引いてっ」

 看護婦さんがいきおいよくワイヤーを引き上げるが、「うーん、表面だな」とD医師がつぶやいた。看護婦さんに緊張が走る。

 2回目。D医師「そこ、だして」。看護婦さんがワイヤーを抜こうとする。「ちがう、逆だ。奥に入れて」
 不成功。とうとう、D医師は自分が支えていたファイバースコープ本体を看護婦さんに支えてもらい、自分でワイヤーの出し入れをすることにした。はさみを開閉する握りは看護婦さんの手の中に。

 モニターを見ながらワイヤーを操作し、はさみを目的の位置にもっていくと、ぐっとワイヤーをおしつるようにして「握って!」。看護婦は緊張した面もちで手をぎゅっと握る。D医師は一瞬のうちにスナップを利かせてワイヤーをぐっとひく。そしてあとは力を抜いてワイヤーをするすると、まるで魚がかかった釣り糸をたぐり寄せるようにひきあげた。あざやか。

 はさみがつかんでいた細胞片は、液体のはいった小瓶に移された。それから、もう一度細胞をとる。全部で3回とられておしまい。



                                  

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