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1.疑わしきは罰せず
2.思わぬうつ病
3.生検にだすためにブツをとる
4.イレギュラー発覚
5.全摘宣言の日
6.封じ手をあける
7.覚悟を決めるまで その1
8.覚悟を決めるまで その2
9.手術予定日を決める
10.手術でおこりうる問題
11.内科医は話し方がうまい
12.外来終了
13.入院の日
14.永久気管孔という穴
15.手術
16.あちらの世界にいったT その1
17.あちらの世界にいったT その2
18.下痢と微熱と貧血と
19.とつぜんの狭心症発作
20.失神発作
21.手ごわい嚥下の練習
…この項終わり…
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20.失神発作
はじめてくらっときたのは、処置室で、だった。
処置のときには悪魔の椅子の背をたおして、あおむけに患者の体はかなり床と水平に近いところまで倒される(そうやって患者は医師に首をさしだすのだ)。
この日、N医師の処置が終わり、背もたれが元にもどされ、Tが立ち上がったときに、くらっときた。そのとき、あきらかにN医師は狼狽していた。あわててTを椅子に戻し、廊下にいた看護婦さんを呼んで血圧を測らせた。血圧に異常がなかったので、Tは、今度はゆっくりたちあがって部屋にもどった。N医師は「首のまわりを強く押したので、迷走神経反射によって気を失ったのかもしれません」と説明した。
部屋に戻るとTは「気を失った。気持ちよかった」と余裕をみせていた。
その数日後、私が到着するのを待っていたかのように、Tが報告をする。
「目が覚めたら顔が床についていた。気力がなくなって、もうどうでもいいやとも思ったけど、すこしたってから起きあがった」
びっくり。
「それからさっきも、高校野球を見ていたら急になにがなんだかわからなくなって。いま何時か、自分がどこにいるのかがわからなくなってしまった」
「それ、看護婦さんにいった?」
「いってない」
お願いだから看護婦さんにいって。
今は落ちついているので、午後の検温のときに看護婦さんに報告をしようということにする。
検温時に話を聞いた看護婦さんは驚いて、ナースセンターから心電図モニターの電極をもってきてつけてくれた。しばらくしてO医師がやってきて、Tを一目見るなり、つけたばかりの電極をべりべりとはがしてしまった。せっかく看護婦さんがつけてくれたばかりだというのに。O医師は「起立性調節障害」のようなことをいっていた。いわゆる「脳貧血」である。
「起立性調節障害」という診断にはちょっと不満だった。私は立ちくらみなんぞしょっちゅう起こしていたから、どういうふうに気が遠くなるか身をもって知っている。あれは立ち上がると、つまり頭の高さが変わると同時に起こる。立ちあがってしばらくしてから起こるものではない。ベッドに横になってテレビをみているときに、ふっとなるものでもない。
その後も、Tはときどき失神した。昼となく夜となく。急に起きあがろうとして失神しそうになることもあって、それは、いわゆるたちくらみだろう、と、心配はしないのだが、気がついたら床に寝ていたこともときどきあるらしく、そういうのはちょっと心配だ。
ある夜など、やはり気がついたら顔が床に着いていたので起きあがろうとしたら、いきなり頭をごちんと打ったという。部屋の中にある洗面台の下に倒れていたらしく、頭を上げた拍子に洗面台にぶつけたのだった。ベッドと洗面台は離れている。ベッドから抜け出して立ちあがったとたんに倒れたなら、洗面台の下に頭は入らない。あきらかに数歩歩いてから倒れている。
一度だけ、Tは私の目の前で倒れた。
夜、Tと私はベッドの端に並んで座って話をしていた。たわいもない話をしていたとき、Tが突然上半身をゆっくり後ろに倒し、ベッドの柵に頭をぶつけた。それをみた私は「なにふざけているのよ」といって笑った。Tは、ときどきオーバーなリアクションをしたりしておどけることがあるので、このときもそうだと思ったのだ。しかし、頭をぶつけてもTは体を起こさない。両腕がびくんびくんと動いている。
げっ。
一瞬、てんかん発作かと思った。いや、泡をふいていないから違うかも。あ、でもあの泡はたしか肺から空気が勢いよくでるから泡に見えるだけで……しかし、永久気管孔の場合はどうなんだ……わっからーん。
Tは呼吸をしていた。それはまっさきに確認した。けれどそれ以上なにもできず、私はただようすをみていた。どうしたらいいのかわからなかった。3分たっても意識が戻らなかったらナースコールをしようと思ったが、まもなく意識がもどった。時計を見たら1分30秒くらいのことだった。Tはなにごともなかったように体を起こす。落ちついたそぶりを見せるので、聞いてみる。
「もしかして、今、失神してた?」
こくん。
そうだったか。
しかしTは気分も悪くないし頭も痛くないというので、ナースコールはしなかった。このときの1分半は長く感じた。
その後も、失神についての対策は講じられなかった。おとがめ、なし。
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