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1.疑わしきは罰せず
2.思わぬうつ病
3.生検にだすためにブツをとる
4.イレギュラー発覚
5.全摘宣言の日
6.封じ手をあける
7.覚悟を決めるまで その1
8.覚悟を決めるまで その2
9.手術予定日を決める
10.手術でおこりうる問題
11.内科医は話し方がうまい
12.外来終了
13.入院の日
14.永久気管孔という穴
15.手術
16.あちらの世界にいったT その1
17.あちらの世界にいったT その2
18.下痢と微熱と貧血と
19.とつぜんの狭心症発作
20.失神発作
21.手ごわい嚥下の練習
…この項終わり…
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2.思わぬうつ病
癌研病院頭頸科では経過観察となったTだったが、三叉神経痛もさることながら、首や頭の痛みはまだつづいていた。
5月19日。この日は、要町病院でもらっていた痛み止めが切れて、薬をもらいに病院に行く予定だった。
朝、目が覚めると隣で寝ているはずのTのようすがおかしい。落ち着きがなく、ふとんの上で立ち上がったり、正座をしたりしている。急に、着替えはじめた。
「どうしたの?」
「散歩に行ってくる」
一言残して、外にでていってしまった。
おどろいた。はじめてみたTのようすだった。わりと短時間で帰ってきたが、しばらくすると落ち着かないようすで、また散歩に行った。その後もそれを何度か繰りかえした。家に戻ってくるたびに「だいじょうぶ?」と声をかけていたが生返事。すこし落ちついたかにみえたとき、Tがようやく事情を説明する。
「じっとしていられない。閉所恐怖症のような感じがする。トイレに行っても、じっと座っていられないんだ」
信じられない! 脳天気なTがこんなふうになるなんて。だって、がんのほうも経過観察になって大きな問題はなかったのに。仕事も問題なく動いていたし。なにが原因でそうなったの?
しかし、Tは不安げな目をして私を見ている。ああ、そんな目をして。
私はいたたまれなくなり、要町病院からもらっていた痛み止め一式の中に胃薬としてだされていた精神安定剤があったことを思いだし(ある種の精神安定剤には胃薬として使えるものがある)、効果があるかどうかはわからなかったが、とにかくそれを「精神安定剤だから、すぐに落ちつくよ」という暗示とともにいつもより一錠だけ多く飲ませた。まもなく、本人が外出できそうになったというので、すぐに要町病院にむかった。「外出できそう」といったTだったが、電車の中でも病院での待合室でも、落ち着かないようすだった。
E医師の所見。
闘病の影響かもしれませんね。Tさんの場合、最初からがんの告知をうけて闘病しているので、すこし心が疲れたのではないでしょうか。
そういって、いつもの痛み止めに加えて抗不安剤をだしてくれた。Tは安心したようだった。
不安定な精神状態はすぐには改善されなかったが、1週間もたつと薬も効いたのか、はげしく不安がるようすは見せなくなった。調子が悪くなれば、近所の公園まで散歩に出かけていくのが習慣となる。
この散歩のとき、どうやらTはたばこを吸っているようだった。薬も飲んだけれど、てっとりばやく気持ちを落ち着かせるためにたばこを吸うようだ。たばこの箱こそみつからなかったが、100円ライターがいつのまにか部屋のそこここにころがっているので、明白である。あとで聞いたところによると、たばこは数本吸って残りは箱ごと捨てていたというからお笑いである。私に怒られるのが嫌だったらしい。そんなにまでして吸いたいのか。
これまでも、私はTが何度か隠し持っていたたばこを発見し、そのたびにぎゃーぎゃー怒って大喧嘩していたのだが、この一件で、私はTにたばこをやめさせることをあきらめた。
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