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1.疑わしきは罰せず
2.思わぬうつ病
3.生検にだすためにブツをとる
4.イレギュラー発覚
5.全摘宣言の日
6.封じ手をあける
7.覚悟を決めるまで その1
8.覚悟を決めるまで その2
9.手術予定日を決める
10.手術でおこりうる問題
11.内科医は話し方がうまい
12.外来終了
13.入院の日
14.永久気管孔という穴
15.手術
16.あちらの世界にいったT その1
17.あちらの世界にいったT その2
18.下痢と微熱と貧血と
19.とつぜんの狭心症発作
20.失神発作
21.手ごわい嚥下の練習
…この項終わり…
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18.下痢と微熱と貧血と
意識が元に戻ったTは、もう一度、がんと闘う決心をした。声を失ったことで「戦いに負けた」と思いがちだったけれど、なんのこれしき。声を失ったことでがんを一掃したと考えればよい。ノドの構造はすっかり変わってしまった。けれども、この現状に一日も早く慣れて、新しい体で社会復帰を目指す。
それが、Tのこれからの戦いだった。
手術後、Tはしばらく下痢と微熱と貧血に悩まされた。中心静脈栄養、すなわち点滴だけの栄養でうんちがでる、というのは意外な気もするが、でるんである。Tには、下痢は「腸が動いている」証拠だし、もともとTは病気が発覚する前から腹は「ゆるめ」だったので、あまり心配しないようにいったが、医師は「腸炎を起こしていても下痢になる」ということで注意をしていた。
Tが下痢よりなりより気にしていたのは微熱だった。手術後すぐに熱がでるのは体の正常な反応としてあたりまえのことなのだが、数日たっても熱が下がらない、というのはまずい。どこかが感染している可能性がある。
Tの熱は37.5〜38℃のあいだを上下していた。血液検査の値をみると、術後高かった数値がだんだんと落ち着いてきているのに、熱だけが下がらない。実際、気管孔の表面両脇がちょっと感染しているのだが「ひどい感染」というわけではないらしい。咽頭も熱の原因となるような状況にはなっておらず、移植した腸には血が流れていて組織も死んではいないようだ。結局、微熱についてはこれといった原因がみつからず、ようす見となった。
熱がなかなか下がらないことは、Tのストレスの種になった。Tは、熱があると内臓や体の機能がおかしくなるのではないか、これ以上の新たな問題を抱えないためにも平熱を保たなくてはならない、と考えた。とにかく1日も早く退院したかったのである。検温は1日3回行われるが、そのたびに体温を気にした。毎回毎回、まだ熱がある、今日も熱がある、と検温のたびに神経を使うのは疲れることだろう。
まだ熱が下がらない、というTの訴えには同情するにとどめていたが、「熱についてはようすを見る」といわれて2週間が経ったとき、「微熱の原因のあたりはつきましたか?」と、なにかのついでに主治医団の一人に質問をしてみた。しかし、あたりはついていなかった。3日後に検査予約をとってありますので、とのこと。微熱が本人のストレスになりつつあるのでよろしく、と伝える。
結果は異常なし。がっかり。変な話だけれど私は「異常あり」という検査結果を期待していた。「異常があるから熱がでる」というのは明快である。原因がわかっていれば、対策もたてやすかろう、何か起こっても迅速に対処できかろう、と思った。「異常なし」というのは、術後ということを考えれば喜ぶべきことなのだろうけれど、じゃ熱はなんなんだ、とすっきりしないのであった。
貧血については、最初からまったく原因がわからなかった。これについても、Tはもともと貧血気味と聞かされていたので(赤血球の数が少ないが、1個1個が大きいからだいじょうぶなんだ、と本人はいっていた)、「元の状態に戻っている」という認識しかなかった。もしかして痔? なんて気楽に考えていた(Tが痔主かどうかは知らない)。ところが、あとで聞いたらこの貧血は「輸血一歩手前」の貧血だったらしい。聞いてびっくり。
ただ、出血している(であろう)場所の特定ができない。考えられるのは手術した首関係と、ストレスによる胃出血。便に血は混じっていたものの、内視鏡で見た胃は「食道と咽頭はきれいにつながっているし、胃もきれいなもの」という話だった。で、これもようす見。
どれもこれも原因がわからない。原因不明のため「ようす見」しかできないというのはわかる。しかし、医者はほかの患者を見ることで頭の切り替えができるからいいけれど、患者は「ようす見」のあいだじゅう、その問題を直視せざるを得ない。
下痢も微熱も貧血も気にしなきゃいいんだろうけれど、病人はほかに気が紛れることがないので、どうしても気になってしまうのだ。家族も、そういう神経質になっている患者をなんとかなだめようとするのだが、成功したりしなかったり。
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