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1.疑わしきは罰せず
2.思わぬうつ病
3.生検にだすためにブツをとる
4.イレギュラー発覚
5.全摘宣言の日
6.封じ手をあける
7.覚悟を決めるまで その1
8.覚悟を決めるまで その2
9.手術予定日を決める
10.手術でおこりうる問題
11.内科医は話し方がうまい
12.外来終了
13.入院の日
14.永久気管孔という穴
15.手術
16.あちらの世界にいったT その1
17.あちらの世界にいったT その2
18.下痢と微熱と貧血と
19.とつぜんの狭心症発作
20.失神発作
21.手ごわい嚥下の練習
…この項終わり…
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15.手術
入院してから数日は、とくにすることもなく、Tの不満も食事が足りないというくらい。「ご飯の量はいいんだけれど、おかずの量(品数)が少ないんだよな」とぼやいており、「腹がへる」などと、健康人のようなことをいった。
手術日の数日前から食事が流動食になっていく。腸をきれいにするためだ。ご飯の代わりにとぎ汁を温めたようなうすい重湯、具のないみそ汁、ゼリー、ジュースなど。みんな液体なのに、一応、ご飯用のどんぶり、みそ汁用の椀、おかずの皿などにはいっていて、なんとなく滑稽だ。
食事に対しての不満が募っていくなか、手術前日は絶食のうえ、下剤攻撃。Tは「食いたい」という欲求を抱えたまま、手術日を迎えた。
7月27日。9時15分手術スタート。
手術は頭頸科の医師だけで、5人が参加(ほかに麻酔科医とかがいる)。これは、首担当チームと腹担当チームの2チームがかりだからである。首チームが咽喉頭をはずしたころを見計らって、腹チームは空腸を首チームに渡さなくてはならない。
空腸は、あんまり早くに切除しても、血液が途絶えてから1時間もすれば腐りはじめて使い物にならなくなる。タイミングが重要である。しかもその空腸をノドにつけるとき、血管をつなぐのが先か、腸管の上下をつなげるのが先か、なんてことが問題になるくらい、段取りが大事な手術だった。
血管は顕微鏡を使って縫合する。これもラットで十分練習してからやっと人間でやらせてもらえる、技術力が要求される手技らしい。ふつう腸は蠕動運動で食物を肛門に送っているので、切り取った腸も肛門側を食道につけるようにする。なるほどねえ。
「咽喉頭全摘、遊離空腸再建術」と一言でいってしまえばそれまでだけれど、いろいろと細かい作業と高度な技術を必要とされる手術だった。
20時25分、D医師が「手術が終わりましたよ」と部屋まで声をかけにきてくれた。所用時間は約11時間。
ナースセンターで、D医師から前回と同じように手術についてのディブリーフィング。まず、今回の収穫物の検分から。今回は咽喉頭の塊が銀のトレイにのっかっていた。右頸部リンパ節も切除したというが、これはトレイにはのっかっていない。
D医師はでかいピンセットに鉗子をもっていて、説明しながら塊をつまんでは、いろいろな角度から見せてくれた。前回のリンパ節郭清のときに「次はつっつかせてもらおう」と思っていたが、D医師でさえ今回はつっつくことができないのに素手の私がつっつけるわけがない。しかたなくにおいをかぐことだけで我慢して、「あ、すいません、もう一度ここを見せていただけませんか」などとD医師にリクエストして、Tの咽喉頭をしげしげとみた。
咽喉頭の塊は、咽頭に切り目が入って「魚の開き」状態だった。「喉頭の筒を背負った咽頭の開き」。咽頭は見た目、「毛穴のない皮が付いた鶏のもも肉」といった感じだった。開きの左上部にルゴール液に染まったがんの塊がある。これが今回の収穫。
手術前に幾度となく内視鏡のモニターでみた喉頭蓋は、たらこのようにどてっとした印象があったが、実際にはとってもコンパクト。CTなどで「ぼっかりとあいた、吸い込まれそうなでかい穴」と思っていた気管は、リング状についている軟骨がかわいい。
もっとしげしげみたかったけれど(正直いえば、自分でピンセットを持ってじっくり見たい)、あまり医師を拘束してもいけないと思って、D医師の帰還報告を聞いた。
心配されていた放射線治療の影響は、大きな問題を起こすことはありませんでした。空腸の血管を首の血管につなごうとしたら、つなぎ先の血管が一度閉塞してしまったのですが、その後、なんとかつなげました。首のまわりの皮膚の血流もまあまあで、いきなり皮膚移植という事態は避けられました。
消灯時間もすぎていたので、私はとくに質問もせず、説明をしてくれたD医師に礼をいってナースセンターをあとにした。その足で、ナースセンターの前にある部屋にいるTのようすを見に行く。Tは2、3日、この部屋に入れられる。
Tは、体に幾本もの管やらコードをぶらさげて眠っていた。本来、口にあてられるべき酸素マスクがのどにあてられている。ノドに酸素かあ。あらためて喉頭が摘出されたという事実を認識する。
管やコードをたくさんぶら下げているTは、悲痛さが漂っても不思議はないのだが、寝顔は穏やかだった。なんの夢をみているのか、ときどき「にへらあ〜」と笑う。あかちゃんて、こんな感じなのかなあ。
ずうっとながめていても飽きなかった。
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