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1.疑わしきは罰せず
2.思わぬうつ病
3.生検にだすためにブツをとる
4.イレギュラー発覚
5.全摘宣言の日
6.封じ手をあける
7.覚悟を決めるまで その1
8.覚悟を決めるまで その2
9.手術予定日を決める
10.手術でおこりうる問題
11.内科医は話し方がうまい
12.外来終了
13.入院の日
14.永久気管孔という穴
15.手術
16.あちらの世界にいったT その1
17.あちらの世界にいったT その2
18.下痢と微熱と貧血と
19.とつぜんの狭心症発作
20.失神発作
21.手ごわい嚥下の練習
…この項終わり…
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10.手術でおこりうる問題
7月7日。放射線治療科の診察。診察といっても、J医師が患部をみるわけでもなく、先週の木曜に行った食道の生検結果を聞きにきたようなものだが、「まだ、結果はでていないようですね」とJ医師がカルテをひっくり返しながらつげると、あとはよもやまばなし、だけ。
「われわれにとっても、Tさんのがんの大きさの治療がいちばんむずかしいのよ。すぐに切ってしまうのも気の毒だし、放射線も効くかどうかわからないし。なんとかしなきゃいけない、とは話しているんだけど」
J医師はいった。
「半年のびたって感じかな」
Tがいう。
「半年でも、よかったです」
放射線治療科の外来診察は本日をもって終了。いよいよ頭頸科一本に絞られて「手術に専念」って感じになる。
肺のCTをとってから、頭頸科D医師の診察。
「手術の説明は、先週の説明でご理解いただけましたか?」
「はい。覚悟は決めました」
Tは低い声で、しかし、はっきりいった。
それからD医師は前回の手術内容についての説明に続いて、今日は「手術で起こりうる問題」について説明してくれた。
首の傷ですけれど、前回はまっさらな皮膚を切ったのでなんともないのですが、今回は、手術をした上に放射線をかけているところを切ることになります。手術では首の皮膚をUの字に切って顎にめくりあげるのですが、患部の切除が終わって傷を閉じるために皮膚を元に戻して縫合しても、皮膚の血流が戻るかどうかはわかりません。血流がもとに戻らなければ皮膚は壊死するので、そうなると肩あたりの皮膚を移植しなければなりません。移植した場合、皮膚がとられた肩には太ももの皮膚を移植します。太ももの皮膚は、というと、太ももは自然に皮膚ができるので、これは皮膚ができるのを待つということでそのままです。
「血流が戻らないというのは、手術後の判断になりますか?」
「手術中に判断することもあります。右側の首も見た目、表面上はなんともないようですが、放射線がかかっていますから、内側、つまり皮膚の下はどうなっているかわかりません」
放射線をかけたあとの手術は、組織がかたくなる、皮膚のみならず血管がぼろになっていて血流が悪くなるという点から、まっさらな状態で行われるよりも問題が多い。放射線によって皮膚に毛細血管がなくなってしまうこともあるらしい。
手術が無事に終わっても首の皮膚が壊死したら再手術。遊離空腸は首の静脈と動脈それぞれにつながれるが、どちらかの血管が詰まって移植した空腸に血がいかなくなっても再手術。10時間を超える手術とはいえ、ふつうだったら「医師にまかせていれば大丈夫」と思っていられるけれど、「やってみなくちゃわからない」という要素が重なってくると、患者側は緊張する。
放射線治療科では食道の生検の結果はまだ、ということだったが、頭頸科では結果を該当部署に取りに行ってくれたようだった。
食道の生検の結果は、異常なしでした。ところで、肺のCTの結果なんですが、転移はありませんが、すこし炎症性の影があります。で、検査担当者から呼吸器科の診察を勧める、とあるので受けていただけますか。
「はあ?」
呼吸器科だと? もしかすると、Tは癌研病院の全科を制覇するんじゃないか? なんだそりゃ。スタンプラリーでもはじめるか。
あきれて、笑ってしまいました。D医師があわてて補足する。
「いや、転移というわけではないのでなんでもないと思うんですけれど、でも、こういうコメントは我々としても無視できないんですよ」
「わかりました。で、呼吸器科にはいついけばいいですか」
Tは落ち着いている。
「今日……すこし時間がかかってしまいますが、今連絡を取ったら最後の診察のあとにみてくれるそうなので」
このへんの対応はすばやい。いつも感心する。
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