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1.手術の日
2.T、わめきちらす
3.眠れない夜
4.翌日から体を動かす
5.美しい手術の跡
6.抜糸見学ミッション
…この項終わり…
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5.美しい手術の跡
Tの痛みは鎖骨から上、頭の左半分に限定されていた。しかし、その狭い範囲の中で、数種類の痛みが同時に起こっていた。頭頂、頬から顎、首から肩、口の中……それぞれが別の痛みに支配されている。この痛みはここだ、という痛みの分類ができないほどだった。
頭痛は、手で頭をなでるだけでも痛いらしい。ヘッドフォンなどとてもできず、めがねでさえ、かけるとツルが耳にあたって痛く、長時間かけていられないという。
ドレーンが抜かれてしばらくたったある日、Tから傷口を見てくれ、といわれた。いいよ、とTの横に回ろうとすると、彼はいきなりパジャマをぬいで私に背中をむけた。
「なに? 傷を見るんじゃないの?」
「あるだろ? 背中に」
「いんや、なにもない。背中はきれいだよ。傷は首だけ」
痛みというのは狭い箇所に集中していると、分類どころか、場所の特定もできないのだろうか。
実際の首の手術跡は左耳の後ろから鎖骨までで、J字型に残っている。何度もはがされて絆創膏の粘着力が弱くなっているところをそっとはがし、ガーゼをちょっともちあげてのぞく。肉を塊でとったためか皮膚のたるみができ、それが縫合のために引っ張られて、首の真ん中、あたりにドレープを2、3本つくっている。
医者がいうように、たしかに傷口はきれいだった。腫れてなければ、膿んでもいない。
傷口からしみでたと思われる血がところどころこびりついていて生々しいけれど、長いJ字の切り口に対して、黒糸の×印が等間隔に整然と並んでいる。×の一辺はすべてほぼ同じ長さで中心は直角。切り口の皮膚は、裁縫でいえば中表でぬって裏返したように合わせられている。どの部分の皮膚も同じように切り口によせられており、ひっぱりかげんが均一であることがうかがえる。「そろっている」という美しさ。
このとき、D医師は手術がうまいんだ、と思った。
感心してしげしげと見ていたら、なにかの加減で傷口の隙間から、プッと血が押しだされて小さな玉をつくった。玉は大きくならずそのままの形をとどめている。自然のつくりだす曲線の見事さに、ガーゼを元に戻してその玉をつぶしてしまうのがためらわれた。色は暗褐色だが、混じりけのない濃厚さで、この血の玉もなかなか美しいものだった。
手術の翌日は、熱と、ノドと手術の傷跡のあまりの痛さに食事もろくにノドを通らず、先行きが暗い思いだったようだが、2日目には熱も下がり、食前に痛み止めを飲んで、なんとか食事がとれるようになってから、すこしずつ回復のきざしが見えた。
手術後の傷口の消毒、観察は毎日行われる。臨機応変なD医師は、外来診察と手術の合間の隙に、Tのようすを見てくれている。
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