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1.手術の日
2.T、わめきちらす
3.眠れない夜
4.翌日から体を動かす
5.美しい手術の跡
6.抜糸見学ミッション
…この項終わり…
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4.翌日から体を動かす
6時になると、病院が動きだす。病院の朝は私の朝よりもずっと早いが、今はそれがありがたい。同室の患者さんが起きたから、まわりへの気兼ねもいくらか減ったし。
8時になって、体を起こすことになった。酸素マスクとちんちんに入れられた尿道カテーテルがはずされる。尿道カテーテルは、男性患者ではものすごく痛がる人が多い、という話を聞いていたが、Tにとって不快感はあるものの激痛が走るというほどではなかったという。このカテーテルがはずされて自由度が増した。
首のガーゼの下からでているドレーンはまだ抜けない。不要な血液などの排出物がたまる蛇腹容器は、さらしで作られた袋に入れて首から下げる。まるで虚無僧だ。Tはこれを首から3つも下げることになった。
手術後初めての食事は5分粥とおかず。しかしノドの痛みがひどく、Tは粥の上澄みの汁をスプーンで2口飲んで、文字通りさじを投げた。
「時間がかかってもいいから、もうちょっと食べたら? きのうは丸1日何も食べていないんだし」
と、勧めてみても、
「もういいっ。食べようと努力しても食えないんだからっ。面倒くさい」
と、怒鳴る。自分では「できる」と思っていることができないことへのもどかしさ。いわれなくてもわかっている、という気持ち。子どもが「宿題やったの?」といわれて怒るのと同じなのかな。しばらく黙ってようすをうかがっていたら「もういいぞ、仕事に行けよ」と追いかえされた。
Tの舌は自由に動かなかった。舌のつけ根片側の動きが悪い感じ。声もややかすれている。首には顔の神経をつかさどる多くの神経が走っているから、多少なりとも影響がでるのだろうか。首の脇を走っている声帯をつかさどる反回神経はメスでかすっても声に影響がでるという。しかし、細かい神経は別としても大きな神経は温存されている(はず)ので、きっと一時的なものだろうけれど、とにかく、Tの話す言葉は聞きとりにくくなっていた。
食事のときは、顎を上下に動かして「かむ」のではなく、左右に、というか回すように動かして、まるで歯が1本もないように、食べ物を舌と上顎ですりつぶしているような食べ方をしていた。下唇が、力がはいっていないかのようにだらんとしている。Tが「老人」に見えた。
Tは食べ物を口に入れると、一瞬、左頬から顎にかけてしびれる、といった。
「味覚センサーが味をチェックする。はじめての味はチェックが厳しいが、2回目からは、短時間でチェックが終わる」という。味覚センサーがチェックしているあいだ、顔半分がしびれているらしい。1口食べると、眉をひそめ、左手で頬を押さえて口をもごもごさせる。
本人は食事のうまさなど二の次状態なのだが、その食べ方は、「まずい食事をがまんして食べている」ように見えるのであった。なるべくいっしょに楽しく食事をして、などと考えていた私は甘かった。食事時の会話がぜんぜんはずまない。ただでさえ話すことがわかりにくいのに、口に物を入れて話されるとお手上げ。しかめつらのTの顔をみながら飯を食うのも、なかなかつらいものがあった。
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