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1.手術の日

2.T、わめきちらす

3.眠れない夜

4.翌日から体を動かす

5.美しい手術の跡

6.抜糸見学ミッション

 …この項終わり…

 

  3.眠れない夜


 20時にはD医師が、22時にはI医師がそれぞれようすをみにきた。朝早かったのに、まだ病院にいたんだ。

 D医師はガーゼを半分はがして傷口をみて「ん、きれいですね。大丈夫ですね」といつもの口調でいった。2時間後に来たI医師もガーゼを半分はがして傷口を見て、「腫れなし、出血なし、オッケイ!」と威勢よくいった。

 看護婦さんは1時間ごとにやってきて、体温、血圧、尿の量をはかり、ドレーンからでて蛇腹にたまった血液を、枕元で器用にビーカーに移してその量をはかっていく。夜中でも、寝ている他の患者さんや、寝ているTにさえさとられぬように、静かにてきぱきと作業をこなしていくのだった。とくに、寝ているTを完全に起こさずに行われた体温と血圧測定はお見事。プロの技を見る。

 Tはうとうとしながらも30分から1時間ごとに目を覚ました。そのたびに水を欲しがり、ガーゼを口にもっていく。すると、Tは水を含んだガーゼを思いっきり、何度もかみしめた。あとでかみしめた理由を聞くと、

「なにせ鼻呼吸ができなくて口で呼吸していたから、舌なんか月面みたいにからからに乾いていたしね。拭くよりもかみしめたほうが、口の中の広い範囲に水がじわっとしみこむ感じがしたんだ。かんだのはよかったよ。すごく楽になったもの」

 0時をすぎると、暖房が切れたのか病室が冷えこんできた。Tはあいかわらず手術着とタオルケットをかけているだけだったが、本人の希望で毛布をかけなかった。寒くないのかな。寒がりの私はコートを着込む。

 2時をまわるとさすがに眠い。気がつくと椅子に座ったまま前屈みになっている。はっとして脇をみると、看護婦さんがTの尿の量を測っていたりして。ひゃあ、熟睡してたわ。私は椅子に座って眠るのが得意なので、このときも気持ちよく寝ていたのだが、病人はおかまいなしだ。垂れている頭をコツコツたたかれて、何度もTに起こされた。「ガーゼ頼む」

 Tは目が覚めると水を欲しがったが、同時に時間も気にした。
「まだ(夜の)10時……」「まだ11時か」

 早く夜が明けて欲しい、という思いが強かったようだ。目を覚ましては、なかなか明けない夜にため息をつき、いらいらを募らせていく。

 4時すぎ。ついにTはそれ以上寝られなくなった。睡眠薬が欲しいと駄々をこねる。あともうすこしで朝だから、といっても聞かない。看護婦さんを呼んでくれという。まだまわりの患者さんも寝ているし、こんな時間に看護婦さんにも申し訳ないと思いつつ、ナースコール。

  しかし「まもなく朝になる。朝になったら体を起こさなくてはいけない。今から薬を飲むと、生活時間がずれてつらくなる」という理由で薬はもらえなかった。Tも看護婦さんからの説明で納得したようだ。

「ディルームに行って、本をもってきてくれ」

 寝られなければ、起きているだけだという戦法にでた。気持ちはわかるが、そんな状態で読書なんてできるの? あきれながらも、ディルームの本棚を物色しに行く。どんな本が読みたいのか質問したいところだったが、今のところTとはおだやかな会話は成立しないので、本棚を前に一人頭を巡らせる。

 ディルームの本棚は文庫本が多く、ジャンルはばらばらで、いかにも入院患者が退院時に置いていった、という風情だった。なんとかTの興味を引きそうな本を2冊選んで渡すと、タイトルを見て「両方とも、僕が行っても選んできそうな本だけど、1冊はもう読んだ」だって。いい方がにくらしい。

  それでも、それ以上何もいわずに読んでいないほうを手にして読みはじめたのでほっとした。すこしは体が楽になったのか、暴れて疲れがでたのかはわからないが、それからのTはおとなしかった。



                                  

Copyright 2001 neko , All Rights Reserved. 記述内容は当時のものです。


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