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1.手術の日

2.T、わめきちらす

3.眠れない夜

4.翌日から体を動かす

5.美しい手術の跡

6.抜糸見学ミッション

 …この項終わり…

 

  1.手術の日


 2月15日。この日、1日仕事を休むために、前日は病院に行かずに遅くまで仕事をし、布団にもぐりこめたときには午前3時をすぎていた。8時には手術の準備が始まるというので、ろくに寝ないで病院に行った。ぼうっとした頭ながらも8時前には病院に着いたので、Tにほめられるかと思ったら、Tはベッドの上ぶりぶり怒っていて、そんなのんきな雰囲気ではなかった。怒っている理由はわからなかったが、手術を前にしてものすごく緊張しているようだ。

 やがてTはすっぽんぽんになって手術着に着替えさせられ、麻酔をかける前の注射を打たれてうつらうつらしながら中央手術部というところにストレッチャーで運ばれていった。

 手術開始予定時刻は9時25分。所要時間、最大約6時間。
「ご家族の方は手術が終わるまでディルームでお待ちください」
と、看護婦さんにいわれた。

 あそこで待てといわれても。

 ディルームはいわゆる「娯楽室」のようなもの。面会時間外に面会者が患者と会う場所でもあり、なんだかわさわさした場所なのだ。日中は人の出入りも多いし、テレビがついていて見たくもない番組が流れている。とても落ちつける場所ではない。

 それで、静かな場所を探して病院をうろついたが、なかなかみつけられなかった。病院というのは「静寂」という印象があったのだが、外来だけでなく、病棟においても雑然さがある。アメリカ映画にでてくる病院のように礼拝堂でもあればいいのに、と思いつつ、結局、手術部の入り口にいちばん近い待合いスペースで待つことにした。

  今日は手術が少ないのか、待っている人は私のほかにひとりかふたりで、比較的静かだ。人が少なくてよかった。私は、携帯用CDプレーヤーで音楽を聴きながら、時計をにらみながらここで手術が終わるのを待つことにした。

 午後1時25分。看護婦さんが呼びにきてくれた。
「ここにいらしたんですね。手術が終わりました。まもなく患者さんは病室に戻りますが、その前に主治医が説明したいといっていますので、3階のナースセンターまでいらしてください」

 ちょうど4時間。意外と早かった。そそくさとナースセンターへ。
 ナースセンターにいくと、頭にキャップ、青緑色の半袖、Vネック、長ズボンの手術着姿のD医師が、銀の深皿片手に立っていた。

 いままでD医師の白衣姿しか見ていなかったので、なんだかしげしげとみてしまう。手には手袋、素足にサンダル。サンダルは居酒屋の座敷に備えてあるトイレ行きの物と同じもので、油性ペンで「手術部」と書かれてあった。お手軽。

 しかし、なんとなくその姿が、しっくりいかない。
 キャップの額の部分は、水鉄砲でどらやきの側面図を描いたように、血が転々とあったのに、手術着がおろしたてのようにきれいだったのだ。ふつう、おでこに血が飛ぶくらいなんだから手術着はもっとよごれているだろう。つじつまがあわない。

 しばらく考えて、やっとわかった。手術のときはこの上にガウンなる物を着るんだ。そうだ、きっとガウンは血まみれだ。ああ、すっきりした。

 D医師が手にした銀の深皿には、Tの首から切り取ったものが入っていた。リンパ節の切除といっても、がん細胞を散らさないように塊でとることになっている。素人目には、20センチくらいの上等のヒレ肉の塊、ってとこ。

 D医師は、「中にしこりがあります。大きいのが1、2、3…」といって、肉の塊をひっくり返しながらがんが転移しているリンパ節を数えて示してくれた。
「4、5……10個も。転移ですね。ほら、硬くなってますよね」

 そういって、人差し指でリンパ節を嬉しそうにつんつんつっついた。残念ながら私には肉の塊の中にリンパ節を見分けることはできない。大きいのはなんとなく、わかった気になったけど。素手だったから黙っていたが、私もリンパ節をつっつかせてもらえばよかった。自分ばっかりずるいよなあ。

「首は回りますか?」
「ゴルフを楽しんでいるかたもいらっしゃいますよ」
 D医師が肉の塊を前にあんまり嬉しそうだったので、私も嬉しくなった。
 これが先生の「本日の収穫」なんですね。手術はうまくいったんですね。



                                     

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