1.事の始まり
1999年11月21日、日曜日。昼近く。
私はTよりも先に起き、パソコンにむかっていた。しばらくするともぞもぞとTが起きてきたので「おはよう」と声をかけたが、Tは返事もせずにそのまま洗面所に直行。いつもは声をかけてくるのに珍しいなと思いつつも、別に気にもとめずに、そのままパソコンにむかっていると、
「おお、首が腫れちゃったぞ、おい」
と、背中でややでかい声がした。
腫れた?
そのとき私の頭には、虫歯で頬が腫れる、その程度のふくらみが浮かんだ。「なにを大げさな声をだしてるんだ」そう思って、うしろを振りかえると、
「わっ」
思わず声をあげる……こ、こぶとりじいさん。
Tはもともと太い首だったが、その左側がみごとに膨らんで、顎とつながっている。膨らみの頂点が顎のあたりに位置しているので、たぷたぷした頬とつながっているように見えて、ちょっとしたこぶのようだった。
「起きたら首がちくっと痛いので、寝違えたかと思って鏡を見たらさ」
こんなに腫れたのは初めてだったらしく、好奇心の塊であるTはちょっぴり嬉しそう。
嬉しそうにいってる場合じゃなーい!
あわててTのそばに行き、腫れた首をそっとさわる。耳の下の顎のあたりが腫れの中心のようだ。その部分は熱を持っている。リンパ腺が腫れたのかなあ。それとも話だけで見たことはないけれど、これが流行性耳下腺炎ってやつなのかなあ?
「痛い?」
「いや」
「おたふくかぜって、もうやった?」
「わからん」
「覚えていないの?」
「子どもの頃にやったかもしれないけど、わからないよ」
額に手をあててみる。熱はなさそうだ。熱がでない流行性耳下腺炎なんてあるのかなあ。やっぱりリンパ腺が腫れているのか。でも、リンパ腺がはれるときって、近くに細菌が入りこんできたり、炎症があったときだと思うんだけれど、Tには「らしい」傷もないし、第一、そういうときの腫れは、グリグリができる程度じゃないのかな。
わからん。
本人は痛みがないからけろっとしている。たいしたことないのか、あるのかがさっぱりわからん。しかも、今日は日曜日。病院は休み。
こういうときには、事典類をみる。わが家にある家庭医学書で、「腫れ・しこりがある」のページを見ると「耳の下から頬や首にかけて腫れる」のは、耳下腺炎が考えられるらしい。でも、熱がないからなあ。
しばらく読みすすめると、同じページには「原因不明のしこりや腫れがあったとき(特に首やわきの下などのリンパ節の腫れ)は、がんの可能性もある」と書いてあった。
げっ。
明日は、絶対医者に行ってもらわなきゃ。
